福島応援紀行:相馬野馬追

7月29〜31日に開催された相馬野馬追へ。イノベーション東北で関わりのある2業者さんと打ち合わせをするたびに野馬追の話になり、また必ず立ち寄るSA「セデッテかしま」にある模型やパネルを目にするたびに「一度自分の目で見てみたい」と思っていた。今回、ご自宅の目の前をお行列が通るからとお誘いを受け、念願の野馬追を見ることができた。

直前まで降り続いていた雨もお行列が始まる直前にぴたりと止んだ。甲冑に身を包んだ相馬の男達そして子ども達がカッポカッポと心地よい蹄の音を立てながら過ぎてゆく。馬の美しさ、武士言葉での伝令、うっかり道路にはみ出る人に「のけーっ!」と叫ぶ武者、ひとつひとつ異なる兜飾りや甲冑など、お行列が通るその場所だけが異空間であり、ひたすらに圧倒されるばかりだった。

野馬追は、相馬太田神社、相馬中村神社、相馬小高神社による1200年の歴史を持つ祭礼だ。震災前は700騎が出馬していたそうだが、周囲の市や県から馬を借り7年かかってやっと440騎までになったとのこと。今年は地震、津波、原発の三重災禍で避難区域となっていた小高地区でも7年ぶりにお行列が実施された。家族同様の馬を飼い、春頃から馬乗りの練習を続ける生活を長年送ってきた地区住民にとっては、まさに念願のお行列だったのではないかと思う。たしかに原町でも小高地区の行列が一番大きな声援を受けていた。

雲雀ヶ原祭場地での甲冑競馬も迫力のあるものだった。アナウンスされた出馬数と実走数が違っていたり、どこから紛れたのか武者なしでコースを何周も気持ち良さそうに走る馬がいたり、フライングで1周余分に走ってしまったためやり直しでビリになってしまった騎馬に大声援が送られたりとハプニングも多かったが、それも見所の一つなのだろう。どのレースも大いに盛り上がった。

メインの神旗争奪では、旗が打ち上げられる前から陣地取りの駆け引きが始まっており、大砲の音と同時に空に舞う神旗の動きに合わせて騎馬が一斉に動く。騎馬の入り乱れる中で風の流れを読みながら旗を追う、武者の馬捌きの素晴らしさに感嘆するばかりだ。

感動と興奮冷めやらぬまま、小高神社・太田神社を参拝した。小高神社の御朱印には馬の印が押されていた。馬への敬愛の念と相馬野馬追への誇りを感じる印であった。

三陸応援紀行:気仙茶

気仙茶というお茶をご存知だろうか。陸前高田や大船渡で自家用に作られ、市場にはほとんど流通しない幻のお茶である。お茶栽培を行なっている最も北のエリアということで「北限のお茶」とも呼ばれている。手揉みされた茶葉をそのまま食べると香りがふわっと広がったあと、独特の苦味が口に広がった。しかしお茶として飲むと爽やかな甘みが余韻としても残るそうだ。

江戸時代に陸前高田の地に植えられた茶の木が地場化し在来種となった。畑の縁に沿って一列に植えられていること、手摘みしていること、肥料は使わず自然のままで育っていること、葉が小さいので虫がつきにくいのが特徴だ。そのため有名なお茶の産地でよく見かけるような茶畑ではない。また一般的な茶畑では結実すると味が落ちるため花が咲く前に刈ってしまうので、お茶の花や実を見たこともないお茶農家も存在するらしいが、ここではお茶の花が咲き、実があちこちになっている。

「震災で茶畑はだいぶ減ってしまったし、区画工事や道路拡張工事でさらに刈られてしまったけれど、気仙茶の存在を特に地元の人に知ってもらいたい。そして伝統を一緒に受け継いでくれる人が増えてくれれば」

北限のお茶を守る気仙茶の会 及川慎治さんは語る。実際に畑を見せていただくと、静岡で見かけるような茶の木がぴしっと整列した畑ではなく、野菜畑やビニールハウスを挟むように敷地の縁に沿って茶の木が一直線を描いている。そこには茶の木を住処とする虫たちの営みがあり、蔓が伸びて茶葉の間から顔を出している。人の手が入っていると分かるのは茶摘みの跡だけだ。

「昔は敷地にポツンと茶の木があって、葉を摘んで食べたりしていたんです」

及川さんが幼い頃は家族で気仙茶を囲むこともあったそうだが、それほど身近だった気仙茶も今では地元の人でも知らない人がいるほどになってしまったとのこと。そこで学校に働きかけ地元の中学生たちに茶摘み体験をしてもらい、若い世代に気仙茶を知ってもらおうと働きかけている。

「お茶の専門家も気仙茶はとても珍しいと驚いていました。量もそれほど採れないし一番茶ばかりだから確かにレアものとして売ればいいかもしれない。しかしなによりも気仙茶というものがここ陸前高田にあること、地元の伝統として気仙茶を守っていく活動をしている人たちがいることを、まず地元の人たちに知って欲しい」

気仙茶に対する思いを語りながら、一芯二葉を見つけると嬉しそうに手を伸ばす及川さん。昔ながらの手もみの他、農協の機械を借りて精茶もしており「また明日来て摘まないとなぁ」とつぶやく。

「次に陸前高田に来るときにはぜひ茶の花を見てください。小さな白い花が咲くんですよ」

見たことがないので茶の花を見てみたい。しかし花より団子、次回はぜひ気仙茶も味わってみたいものである。(及川さん、すみません)


北限の茶を守る気仙茶の会
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